庄司 和彦
鈴木建築設計事務所で住宅設計を行う意味
設計事務所の経営採算の視点から見ると、住宅設計はそれ自体では効率の良い分野ではありません。
しかし以下の理念から私たちの事務所で住宅設計をカバーすることは大きなメリットがあると考えます。
何と言っても住宅は建築が成り立つ原点です。ですから住宅設計はあらゆる建築設計の基本であると言ってよいでしょう。
鈴木建築設計事務所は高齢者・障がい者・幼児等のための建築分野を得意とする設計者集団です。
これらの人々が生活する建築群では、施設的つまり均質で無機的な建物ではなく、極力住宅的なスケールや雰囲気を持つ建築が求められます。
従って住宅設計を経験し修練を積むことは、事務所の主要な建築群の設計にとって大いに役立ちます。
また逆に、福祉建築などの設計経験から培われる居住者への温かい視点やユニバーサル建築としてのノウハウは、住宅設計にとっても重要ポイントです。
このように私たちの事務所と住宅設計とは親和性が高いことがわかります。
さて住宅設計は一般の建築用途の設計とは少し違う点があります。
まず住宅は個人の財産であり、その設計は本来クライアント自身が行うものです。
設計者としてはそのお手伝いに徹するという姿勢が大切です。
住宅は生活の器であり機能性・利便性は大切ですが、もっと重要なことは空間の情緒性・雰囲気です。
住宅のクライアントにはそれぞれ個人的かつ個性的なニーズと夢(憧れ)があります。それをくみ取るのが設計者の仕事です。特に住宅への夢、どういう住宅を創りたいのか?はクライアント自身が具体的には分かっていないことが実は多いのです。
このクライアントの潜在的なニーズと夢を引き出して提案することが、設計者の力量であり他にはない住宅設計の醍醐味です。
もう一つ重要な視点はクライアントの生活像として、住宅空間のプライバシーからパブリックへの切り替えとシークエンスをデザインすることです。外部や隣の家とどういう関係を持つか、どう閉ざし、どう開くか、コミュニティにどう繋がってゆくか、がデザインの主要なテーマとなります。これは建築家の社会性のレベルが試されることでもあります。
住宅設計に対する上記の理念は、建築家の設計する住宅とハウスメーカーによる住宅との違いでもあります。ハウスメーカー等にはどうしてもメーカー基準の枠内という限界があるからです。
上記は一般の用途、生活が展開する建築での主要テーマとしても共通するでしょう。ただ住宅設計ではこれらのテーマがより先鋭、明確に現れます。
だから住宅設計はやっていて面白いのです。
鈴木建築設計事務所の若いスタッフたちが住宅設計を経験することによって居住者の生活への観察眼が磨かれること、そして設計に対してますます意欲的になることが期待されます。