庄司 和彦 (庄司和彦設計室)
今回は「人間と岩の大地のかかわりについて」が主なテーマです。
トルコ・アナトリア高原に聳える霊峰エルジエス山の大噴火によってカッパドキアの奇岩台地が生まれました。世界遺産カッパドキアは自然遺産だけではなく文化遺産、つまり人間の創造性にかかわる側面を持ち、それが実に興味深いのです。観光イメージとしては奇岩群の風景が一般的ですが、この岩の荒野という自然に対する人間の営みの凄さには驚きます。
奇岩の荒野:よく見ると 住居やホテルが溶け込んでいる |
ギョレメ野外博物館: 岩をくり抜いた教会群 |
野外博物館の地名「ギョレメ」とは「見るな!見えない!」という意味です。
岩窟教会群、地下都市は初期キリスト教時代の教徒たちがローマ帝国やその後のペルシャ、イスラム民族によって包囲、侵略された時、一時的に(と言っても何年も)隠れるための見えない都市です。血脈のような迷路は遮断の仕掛けがあり高さは8階建、地下65mにも及び人間の究極の業を感じます。
奇岩群の大パノラマはたしかに壮大ですが、これを見ると「欧州南部、中東等の国々では岩石と建築が渾然一体としている都市はよくある。このことが石の建築文化の原点ではないか」と思いました。
カッパドキアは加工しやすい火山岩の台地ですが、地中海沿岸には火山岩のほか石灰岩、砂岩、深成岩(大理石他)等の台地が連なる地方が多く、各々独特の「石と建築が交わった風景や文化」をつくっています。
闇の教会:洞窟の深部では フレスコ画が保存されている |
洞窟ホテル: 客室はすべて別々で窓はほとんど無い |
観光用に多くの洞窟ホテルができています。大きな空間は取れないので迷路のような客室です。薄暗い洞窟にいると一条の光が劇的で、究極に守られた感覚によって胎内的な居心地良さがあります。ただし水回りが分散する等不便さは覚悟しなければなりません。今回は、普通の観光コースにはありませんが、実際に居住されている洞窟の家を拝見することができました。岩の塊が一つの家です。観光のためというより、文化の保存のため行政が補助をして住んでいるのだそうです。
これが1件の家: 3階建、左に入口、手前にバルコニー |
内部の主空間: 凹凸のある床やベンチに絨毯敷き詰め |
火山岩は極小の孔による多孔質であるため優れた断熱性を持っていて、夏涼しく冬暖かいとのこと。内部は三層で一番上には換気の孔があります。広い主空間は多目的で周囲はベッドにもなるように棚状に岩が加工されています。床にも棚ベッドにも敷き詰めた地元産の絨毯が美しい、不思議な魅力、童話の世界です。感心したのはどの岩窟住宅でもパーゴラのあるバルコニーを設けていることです。
岩石の台地と住宅やホテルが 混然一体に溶け合っている |
ホテルやレストラン: 居心地良いバルコニーが重なる |
最後にトルコの一般的住宅におけるこのバルコニーの役割についてまとめます。
トルコの現代住宅はデザインや構造等の技術については得意ではないようです。多分民族のルーツが遊牧の民だったからなのでしょう。しかしどの街でも一般住宅に広いバルコニーが(位置は2階、3階、屋上のどこかに)あります。洗濯物干しなどのサービス機能のためではなく、家族や仲間が集まって食事やパーティ等を楽しむための屋外空間なので日本の住宅のバルコニーよりかなり広いスペースです。強い日差しを避けるために、金属やキャンバス等の庇を設けています。
この国では住宅の規模や材料、工法にかかわらず「バルコニーは生活の豊かさを支える共通言語である」ということを知ったのはこの旅の収穫の一つでした。