庄司 和彦
トルコ西南部には古代ローマ遺跡が多くあります。意外に思われるかもしれませんが、その壮大さは本家のイタリア等欧州のローマ遺跡を凌駕しています。そしてその遺跡の風景、佇まいは全く異なっているのです。ギリシャ人、ペルシャ人、ヘレニズム(アレキサンダー大王後の一時代)等が入り乱れてつくった街ですから正確には古代遺跡と言うべきでしょう。それをローマが紀元1世紀~3世紀の最盛期に属州として完成させた街が多く、現在に残る姿はやはりローマ遺跡といった方が明瞭です。
ローマ遺跡を見るとなぜかワクワクします。ローマ建築がその後のロマネスクやルネッサンス建築に繋がる悠久の歴史を感じるからです。塩野七生著「ローマ人の物語」を読んで以来、私はローマ文化への憧憬が一層大きくなってきました。
欧州のローマ遺跡はイタリア、フランス等の都市の中に組み込まれて観光地として整った形で保存されている「都市の中のローマ遺跡」と言えます。これに対して、トルコでは「荒野のローマ遺跡」なのだというのが私の印象です。壮大ですが忘れられた物悲しさが漂っているところがまた魅力的なのです。
■ エフェソス(エフェスとも言う):世界最大級の都市遺跡
クレテス通り: デザインされた石畳のメインストリート |
美しいセリシウス図書館: 古代三大図書館の一つ |
大通りに沿って神殿、高級住宅、公衆浴場やトイレ、娯楽場等の列柱や台座が並び、かつての賑わいが感じられる都市空間です。周りには崩れた建物群と夥しい石の部材があります。
ハドリアヌス神殿: 奥のレリーフがメデゥーサの目配り |
浴場跡など、荒涼とした大地と呼応している遺跡 | |
水洗の公衆トイレは オープンな社交場。噴水の水音 |
こっそり遊郭に向かうため?の ユーモラスな誘導サイン |
美しい彫像やレリーフ群は20世紀になってドイツ等によって発掘、持ち去られ、今はレプリカだったりするのが残念です。トルコに限らず古代遺跡の貴重な遺物は帝国主義時代の列強国家がかなり持ち去ってしまいました。遺物はその遺跡にあってこそ生き生きとするのです。
うらぶれた装飾群が数多く残る | 痛んでいるが 往時の美しさを偲ばせるレリーフ群 |
エフェソス遺跡は現在まだ80%以上が未発掘と言われています。周囲には大理石の円柱などがゴロゴロ転がったままです。荒涼とした丘陵地にあったエフェソス遺跡群はまだ発展途上なのです。
丘陵の地形を利用した巨大な円形劇場 | 発掘作業中の円柱、 台座等が無造作に転がっている |