斎藤英二
施設概要、改築の経緯
本保育園は既存保育園の土地の借地契約期間の満了に伴って改築移転される「小百合第二保育園」です。
小百合第二保育園の建設地である天童市は山形県東部にある人口6万5千人弱の都市です。天童市は将棋こまと温泉の街として有名で、山形市のベットタウンとして発展しています。さらに、子育て支援日本一を目指し、様々な施策を行っており、この小百合第二保育園も市から補助を受けての事業となっています。
園の建設地である芳賀地区は新興の住宅地であり、東北最大となるイオンが建設されるなどニュータウンとして急速な開発が進んでいます。このような急速に変化が進むこの地に立つ建物には時代と地域を貫く建築デザインが必要でした。現在、建設工事が順調に進んでおり11月に完成予定です。
図-1 外観パース
建物概要データ
建築主 社会福祉法人小百合保育園
工期 平成25年12月~平成26年11月(建物完成)~平成27年3月(既存建物解体)
主要用途 保育園
所在地 山形県天童市
構造・規模 鉄骨造+鉄筋コンクリート造 2階建
延床面積 1242.30㎡
設計コンセプト
小百合第二保育園は2013年2月に設計コンペが実施され、提案内容が評価され当選しました。その案はまるい屋上広場と建物中心のまるい遊戯室の吹抜けを組み合わせて、一本のダイナミックな回遊動線が展開する「まるい広場のある保育園」という提案です。設計コンセプトの要点は以下の4点です。
・屋上(2階)のまるい広場(おひさまひろば)
・1階の中心のまるい遊戯室(みんなのひろば)
・遊戯室~屋上広場~園庭を結ぶ1本の回遊路(うず巻きのみち)
・2階事務室から園舎全体が見通すことができる安全安心の構成
建物の中心に2層吹抜けとなる遊戯室を配置し、保育室を扇形状に配置した半円状の平面プランです。屋上には広場を設け、スロープによって園庭とつながることで行き止まりのない連続的な構成となります。
図-3(a) 1階平面図 | 図-3(b) 2階平面図 |
図-4 内観イメージ(設計コンペ時)
コストコントロール
提案したデザインの魅力で当選しましたが、そのデザインを実現するためにコスト管理が大きな課題となりました。当初、構造形式は鉄骨造純ラーメンとして計画していました。コンペ当時は県内のどの建設現場においても、東日本大震災の復興事業の影響で型枠大工、鉄筋工の職人不足が問題となっていました。それを勘案し、工期短縮を理由に鉄骨造の提案としました。建物のデザインも最大スパン17.5mの楕円形の遊戯室は鉄骨純ラーメンをイメージしてデザインしていました。
楕円形なのでR加工も煩雑で、内部のプランが複雑な形状を鉄骨造で成立させるのには、材料・加工ともにロスが多く、予想以上のコストを要することが判明しました。仕上げ材も曲面とする必要があり、仕上げ材の加工にもコストがかかります。魅力ある平面計画を失うことなく、大幅なコストダウンを実現する提案が必要でした。
架構形式の検討
まず、構造形式を純ラーメンではなく、ブレース構造案を検討しました。ブレース構造とすることで、地震時の曲げモーメントから開放された柱断面は小さくなり、仕口部を剛接合とする必要もなくなるのでコストを抑えることができます。しかし、プランが複雑なので思うようにブレースを配置することがでません。
次に、間仕り壁を耐震要素として利用して、壁式鉄筋コンクリート造(以下WRC造)として成立させる案を検討しました。コンクリートの壁であればプランに合わせて自然に室内に配置することができます。ただし、遊戯室部分はスパンが大きいため、方杖付ラーメン架構の鉄骨造としました。また1階においてもスパンが大きい部分には鉄骨柱と梁で床を支えています。
したがって、最終的に1階はWRC造(一部鉄骨造)とし、2階は鉄骨造部分とWRC造部分が存在する平面・立面共に混構造しました。
図-5(c) R階伏図 | 図-5(d) 座標図・形状図 | |
図-5(a) 1階伏図 | 図-5(b) 2階伏図 |
構造計画とプラン修正
構造設計の方針は決まったものの課題は多数ありました。WRC造とするには、各階の壁位置はある程度揃え、平面的にもバランスよく配置する必要があります。この時期、意匠の設計があまり進まないという状況にあり、構造設計が先行して、意匠と構造の両面で成立するように様々な検討を行いました。最終的に様々な課題を解決し、構造的に成立する修正プランが完成しました。
構造設計方針
主要な構造設計方針は以下の5項目です。①2階はWRC造部分と鉄骨造部分が存在するので互いをEXP.Jにより構造的に明確に分離する。②1階と2階のWRC造部分はルート1を満足する壁量を確保する。③2階鉄骨造部分は、方杖(ブレース)付ラーメン構造として設計する。④WRC造部分と鉄骨造部分の接合部に十分な安全率を確保する。⑤偏心が生じないように耐震要素を配置する。
確認申請上、混合構造であるためにルート3以上の計算を求められるので、任意系構造計算プログラム(midas/Gen (㈱midas IT Japan))を用いて弾塑性荷重増分解析を実施し保有水平耐力を確認しています。
図-6 構造アイソメ図
鉄骨造部分の設計
楕円形状となる遊戯室のスパンは17.5m です。R階の屋根仕上げ材はルーフデッキであり軽量ですが、積雪荷重100cmを負担するため、設計には注意が必要です。架構は遊戯室外周部に柱を配置し放射状に大梁を架けます。通常であれば、円周方向に鉛直ブレースを配置するところですが、意匠上の理由から半径方向に設けます。十字に主要な大梁を架け、その梁に方杖(鉛直ブレース)を4箇所設けています。
鉛直荷重を負担するとともに主要な耐震要素となります。十字型に耐震要素を配置したためねじれ変形が卓越しないように円周方向は剛接架構として十分な剛性を確保します。方杖は2FL床スラブに直接応力伝達できるディテールです。
図-7 鉄骨詳細図
施工監理、現場状況
平成26年6月現在において、基礎コンクリート打設まで完了しています。本建物のWRC造部分は18~20cm厚の壁で構成しています。施工性と耐久性に配慮して、地上階のコンクリートには高性能AE減水剤を使用し、スランプを21cmとしたコンクリート配合としました。7月初旬までに鉄骨建方が完了し、8月中旬までにコンクリート工事が完了する工程です。
写真-1(a) 遣り方 | 写真-1(b) コンクリート打設 | 写真-1(c) スロープ地中梁 | ||
電柱も道路もない現場周辺 奥にイオン天童がみえる |
北側(写真左側)の打設 南側の工区は脱型完了 |
曲面形状が少しわかる |