斎藤 英二
デザインコンセプト‐雪深い冬でも活動的に楽しく過ごせる学校‐
写真-1 建物北側全景
建物の建つ山形県中山町は山形盆地の西に位置する人口約1万2千人の町です。冬期間には積雪が100cmにもなる冬が厳しい地域です。私たちは雪国でも生徒が躍動的に過ごせる、この地域ならではの学校の形態をつくることを目指し、一つ屋根の下みんなが集まるホーム(=大きな家)のような中学校を計画しました。
この中学校は建物の中心にアトリウム空間を設けた雪国に合ったコンパクトで整形な2階建て校舎棟と、冬季間や雨の日でも開放的で様々な活動に利用できる空間を有した屋内運動場棟の2棟で構成しています。各棟をブリッジで接続し、コンパクトにまとまった配置計画としています。建物同士が連携しあい、様々な活動とにぎわいをつくりだす事を意図しました。
図-1 平面図・配置図
写真-2 ひまわりフォーラム | 写真-3 メディアセンター(2階) |
構造計画‐ダイナミックな木架構を持つ校舎棟‐
校舎棟の主たる構造形式は鉄筋コンクリート造です。架構形式は桁行、張間方向共に耐震壁付きラーメン構造としています。桁行方向はアトリウム空間との境壁部分に厚さ350mmの耐震壁を設置し、張間方向は教室境に厚さ200mmの耐震壁を設置しています。アトリウム部分にはRC造・S造・木造を組み合わせて12mスパンの屋根を構成しています。
図-2 校舎棟 構造アイソメ図
耐震壁は連層耐震壁とし、境界梁曲げ降伏または壁脚の曲げ降伏型とすることで靭性に優れた構造としています。また大地震で耐震壁が損傷した場合でも柱、梁で所要の耐震性能を保持できる耐震設計としました。
アトリウム空間には、木の温かみを感じられるよう方杖と斜め格子梁による木造屋根架構を採用しています。耐火建築物であるため、長期的な鉛直荷重をS・RC部材で負担し、木材を地震や風などの短期的な荷重負担に限定することで、特殊な工法を用いずに構造体である木部をあらわすことを実現しています。
写真-4 メディアセンター | 写真-5 オープンスペース |
構造計画‐多様な教育、活動に対応した屋内運動場‐
構造形式は1,2階がRC造、アリーナの屋根架構を含む3階より上層はS造(一部SRC造)です。16.5mスパンの2階アリーナの床梁にはPC梁を使用し、武道場・ピロティを構成しています。33mスパンのアリーナ屋根架構は方杖とテンション材を組合わせた鉄骨トラス梁としています。方杖によるスラスト変形は、3階ランニングロード部分の床梁にプレストレスを導入することにより抑制し、S柱せいを400mmに抑えることですっきりとしたランニングロードを実現しました。地震力に対しては、1,2階はRC耐力壁を、3階より上層は鉄骨ブレースを配置し、上下層の剛性のバランスに配慮しつつ、十分な耐震性能を確保しています。
図-3 屋内運動場棟 構造アイソメ図
写真-6 アリーナ | 写真-7 アリーナ | |
写真-8 ランニングロード | 写真-9 ピロティ |
生徒の思いを刻むボイドスラブ
校舎棟の昇降口、屋内運動場棟の南側回廊は偏平なコンクリート列柱がコンクリートスラブを支えるデザインとしています。このデザインを実現するために厚いスラブが必要でしたが、球体ボイドスラブを採用することにより重量の軽減を行いました。
球体ボイドスラブを施工するに当たり、在校生、新入生を対象とした球体ボイド設置イベントを開催しました。球体ボイドには生徒たちの夢や思いなどが自由に描いてもらい、生徒の手によって建物内に埋め込みました。これから数十年~百年先の中山町を見守っていくこの中学校の中に、生徒の思いが刻まれることで、精神的にも生徒たちの将来にわたる“ホーム”となる建築を目指しています。
写真-10 屋内運動場南面 | 写真-11 列柱による開放的なピロティ |
写真-12 生徒による球体ボイドの設置
建物概要データ
構造・規模 | |
校舎 | 鉄筋コンクリート造一部鉄骨造・木造、3階建(耐火建築物) |
屋内運動場 | 鉄骨造一部鉄骨鉄筋コンクリート造 3階建(耐火建築物) |
建築面積 | 3,605m2(校舎), 1,978m2(屋内運動場) |
延床面積 | 6,427m2(校舎), 3,954m2(屋内運動場) |
基礎形式 | 直接基礎(地盤改良) |
設計期間 | 平成25年3月~平成26年3月 |
工期 | 平成26年7月~平成27年12月 |