東北大学建築CLTモデル施設実証棟(JSCA東北構造デザイン発表会2018で発表)

斎藤 英二

CLTとは

Cross Laminated Timber(クロス・ラミネイティド・ティンバー)の略で、挽き板を並べた層を直交させて重ねて接着した大判パネルをいいます。1995年頃からオーストリアを中心に発展してきた新しい木質構造用建築材料で、世界中で様々な建物に利用されて始めています。CLTは寸法安定性が高く、厚みがあることから断熱性、遮音性、耐火性に優れています。また、施工性の良さや鉄筋コンクリート造などと比較した際の軽量性など様々な利点があり、これからの建築材料として大きな可能性を持っています。

宮城県CLT等普及推進協議会

木材の需要拡大に寄与することが期待されるCLT等についての理解を深めるとともに、CLT等の利用に係る先導的な事業に産学官が連携して取組むことで、木造建築の普及を推進し、県内の豊富な森林資源の循環利用と林業・木材産業及び建築産業の振興に資することを目的として平成28年2月に設立されました。
モデル施設の建設、CLT等木造建築の設計、先進地の視察、資料の作成、講習会・見学会の開催など、木造技術者の育成や木造建築の広報など様々な活動を行っています。

CLTモデル施設建設プロジェクト

協議会の平成28年度事業として、CLTモデル施設プロジェクトを募集し、東北大学工学部建築モデル実証棟が採択されました。これを実現するために、宮城県内の産官学の各分野からのメンバーで構成される設計・施工タスクフォース(TF)が編成され、材料・部材生産~基本設計~実施設計~施工が実施されました。

構造設計・接合部設計・構造実験

本建物は平成28年に公布された告示「CLTパネル工法による構造方法・構造計算に関する技術基準」を用いて設計しています。CLT架構部分は、CLTパネル工法告示ルート1による壁耐力を満足させるほか、別途、架構の応力解析により、変形や応力の確認をしています。CLT架構の接合部は、木材同士を嵌合させ金物の使用を減らす新しい接合形式や構造用ビスを採用し、要素実験により性能を検証しています。

敷地環境に呼応した立体的な構造形態

本建物は階段教室断面を組み合わせたスタジアム状の空間構成となっています。建物配置は狭小な敷地を考慮し、最小限の基礎ボリュームから空間を持ち出す形態としています。地盤面より1.5m高い位置にフロアラインを設定し、床下の半地下空間は機械室としています。建物平面及び断面共に隅切りを行い、樹木が生い茂る周辺環境に調和した建築形態としています。

木質材料の表情を積層したインテリア空間

内部空間は部材組成を「見える化」することで、構造体や仕上げとしてのCLTの活用、他の木質材料との関係を観察することを可能としています。内装有孔パネルの加工にはデジタルファブリケーションを取入れ、アルゴリズム設計及びレーザーカッターによる孔加工を行い、講義室としての吸音性能を満たすとともに空調吹出口や換気・排煙経路として活用しています。

すり鉢状の断面構成を活かした環境制御

段床内をチャンバーとし、蹴上から空調空気を送り出すことで床面近傍のエリアの快適性を優先する効率的な空調としています。外壁の一部はダブルスキンとし、条件に応じて太陽熱利用が可能となります。中間期は屋根部の排煙窓を利用した自然換気を計画しています。

CLTを用いた構造計画

八角形の特徴的な形状をCLTパネル工法で実現するために本建物は以下の4つの構造要素から構成されています。
(1) すり鉢状に張り出したRC造基礎
(2) CLTパネル工法とLVL格子梁で構成する主架構
(3) 所要の水平剛性を確保するためのLVLリング床版
(4) 軽量な屋根を構成する在来木造小屋組み
基礎及び斜め梁とリング梁をRC造で構成し、その上部にCLTパネル工法による主架構を構成しています。パネル間のせん断接合は嵌合接合としました。長スパンの梁は互いに交差する格子梁として10mスパンの空間を実現しました。また、主架構と格子梁上端をしっかりと固め、建物の一体性を確保するために、LVLパネルを2層重ねて接合したリング床版を設けています。パネル同士は約1500本のビスで固定しています。屋根架構は在来工法の小屋組みとし軽量化を図っています。

建物概要

[建物名称] 東北大学建築CLTモデル実証棟 CLTセミナールーム
[用途]    大学(セミナー棟)
[所在地]  宮城県仙台市青葉区荒巻青葉6-6
[基本計画・総合監修] 東北大学(意匠)石田研究室(構造)前田研究室(設備)小林研究室
[設計監理] 佐藤総合計画・鈴木建築設計事務所設計共同企業体
[施工]   (建築)セルコホーム㈱ 、(設備)日比谷総合設備㈱、(施工計画支援) 鹿島建設㈱東北支店
[写真撮影] 熱海俊一写真事務所 Studio SHUN’S
[規模]   構造:木造(CLTパネル工法) 階数:平屋建て 建築面積:90.36m2 延床面積:90.36m2
[設計期間] 2016年11月~2017年3月
[工事期間] 2017年6月~2017年12月
[設計施工TF活動期間] 2016年6月~2018年2月
[謝辞] 本建物は宮城県CLT等普及推進協議会CLTモデル施設建設プロジェクト設計施工TFメンバーの多大な協力により完成しました。関係者の皆様に感謝申し上げます。

2020-09-23T15:16:27+09:002018年7月7日|Tags: |
Go to Top