斎藤 英二
施設整備の背景
八戸市の中心市街地は、大型店等の撤退などにより大変厳しい状況にありましたが、平成20年に八戸市中心市街地活性化基本計画を策定し、中心市街地の活性化に取り組んだ結果、八戸ポータルミュージアム(はっち)開館以降活性化に向けた明るい兆しが見え始めています。
「マチニワ」の位置する三日町側は、中心市街地の中枢に位置し、回遊の拠点として重要であること、さらには正面に位置する「はっち」との連携により、中心市街地活性化の効果を最大限に引き出すことが期待できることから、八戸市が主体となって整備することとなりました。「はっち」の事業や中心商店街で行われている様々な取組み等をより一層発展させ、街区を東西に縦貫する花小路や隣接する建物等との連携によって、都市の魅力の向上を図り、多くの人々にとって居心地が良いと感じられ、生活を豊かにする居場所の創出を目指すこととしています。
((仮称)三日町にぎわい拠点整備基本計画より)
マチニワの計画コンセプト
・居住者や来訪者にとって魅力的で、生活を豊かにするサードプレイス(居場所)の創出
・はっちや周囲の民間施設をつなぎ、文化・芸術活動等が融合する洗練された空間の創出
・小路、ヒト、情報が交わる空間として、地域コミュニティの再生に寄与する拠点の創出
構造設計コンセプト
本建物の敷地は中心市街地ということもあり、防火地域に指定されています。したがって、本建物の用途・規模の建築物は耐火建築物なります。一方で、計画コンセプトの「サードプレイス(居場所)の創出」のために、鉄やコンクリートの建物ではなく、緑・水・光などの自然を感じられる、温かみのある空間が求められました。
青森県は県土の約66パーセントを森林が占めており、森林面積が全国第9位で、多様な樹種がバランスよく分布する森林県となっています。県内の木材生産の中心はスギとなりますが、八戸市の位置する南部地域では、アカマツが主要樹種として梁などの建築用材として多く生産されています。
以上を踏まえ、この県産のアカマツを用いて、南部地域の伝統紋様の南部菱刺し、伝統織物である南部裂織りをモチーフとした「菱刺木架構」を計画しました。
耐火建築物であるため、長期的な荷重を鉄骨部材で負担し、木材を地震や風、積雪などの短期的な荷重負担に限定することで、特殊な耐火工法を用いずに構造体である木部をあらわしています。
「菱刺木架構」と「水の樹」が織り成す街中の居場所
青森県の南部地域に位置する八戸市は、工業と漁業によって発展した港町です。八戸市の主要道路と河川を塗りつぶし、海側を下にすると、海の中に根をはり、大きく育つ1本の樹のように見えます(海の樹)。
これをモチーフとして、goen゜森本氏によりシンボルオブジェ「水の樹」がデザインされました。
「水の樹」は建物の中央に配置されています。エレベーターシャフト部分から伸びる「菱刺木架構」と呼応し、ユニークな空間を演出しています。
夜にはライトアップされるなど、時間によって表情を変え、幻想的な空間となります。
建物概要
[建物名称] 八戸まちなか広場 マチニワ
[用途] 集会場
[所在地] 青森県八戸市三日町21-1
[建築主] 八戸市
[設計監理] INA新建築研究所
[構造設計] 鈴木建築設計事務所
[設備設計] 東北設備設計事務所
[ランドスケープ] カルノランドスケープデザイン
[モニュメントデザイン] goen゜
[施工] 建築:穂積・石上特定建設工事 共同企業体、電気:興陽電設、機械:創水舎
[モニュメント製作] 丹青社
[規模] 構造:鉄骨造一部木造(耐火建築物) 階数:地上2階地下1階建て
敷地面積:1090.98m2 建築面積: 788.99m2 延床面積:1249.85m2
[設計期間] 2014年5月~2017年3月
[工事期間] 2017年4月~2018年6月