2018年11月
藤原 薫 <略歴>
株式会社鈴木建築設計事務所は今年で実に半世紀となる創立50年目を迎えています。今迄ご支援いただいた皆様に心から感謝申し上げます。2005年1月に初めて私のメッセージ(1)を載せましたが、以降14年間の出来事や私たちの動きを振り返ってみたいと思います。
《信頼を揺さぶる姉歯事件と山形建築構造センターの設立》
2005年に世の中を揺るがす構造計算書偽装問題いわゆる姉歯事件が起きました。この事件を受けて2007年6月に改正基準法が施行され、構造計算適合性判定制度が導入されました。第三者機関による構造審査(ピアチェック)が日本で初めて義務付けられたのです。施行された当初の審査が余りにも厳しかったため確認審査が滞り、私を含め多くの構造設計者にとって精神的に厳しい苦難の年となりました。
2007年に山形県から要請があり、構造計算書適合性判定業務を行う受け皿として山形建築構造センターを設立、高橋邦雄氏(故人)が初代社長、私は社内審査担当取締役に就任、2年後には私が二代目社長に就任し4年間務めた後に業務を山形県建築サポートセンターに移管しました。この6年間は緊張の連続で、構造設計者の信頼を取り戻すために費やされたと言ってよいでしょう。
2015年に杭打ちデータの改ざん事件、今年2018年にKYBによる免制震ダンパーのデータ改ざん事件という、社会の信頼を失う事件が建築界で相次いでいます。私たちは設計者として発注者を守る責任を改めて認識する必要があると感じています。
《連続して起きる想定外の自然災害》
2011年3月に津波などによる死者約2万2千人を出した東北地方太平洋沖地震、2016年4月に震度7を連続して記録した熊本地震、2018年9月に液状化による大規模な地盤被害を出した北海道胆振地震が次々と日本で起きています。東北地方太平洋地震はマグニチュード9.0という観測史上最大の巨大地震である上に、異なる三か所の断層が連続的に破壊するという今までに経験のない地震でした。また、熊本地震は震度7の大地震が数日の間に2度起きた初めての地震です。
このように現在の耐震規準では考えていない想定外の地震が起こり、今後は何らかの対応が迫られている状況になっています。私たちは発注者の耐震に対する要求水準を正しく受け止める必要性に迫られています。
《新たな木質建物と建物改修による木造建物保存》
私たちは10年ほど前から今日まで、中小規模の木造建物の設計実績と設計技術の蓄積に努力を重ねてきました。なぜなら、私が建築を目指したのは木造に魅せられたことが理由の一つであり、その原点に戻ってみたいと考えたからです。2010年5月には「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行され、非住宅系の木造建物に世の中の目が向けられる契機となりました。戦後の日本では都市防災の観点から住宅以外の木造建物の建設は制限され、木造建築の空白時代を生みました。
2016年には東北大学の前田教授から4月に告示化されたばかりのCLT(直交集成材)研究のお誘いを受け、ユニークな形状の東北大学建築CLTモデル実証棟の設計に携わる機会を得ました。設計の途中でCLT建物のヨーロッパ視察旅行に参加し、ヨーロッパやイギリス、カナダでCLT建築が発展している状況を知り、大きな衝撃を受けました。木材の生産と供給が国家的産業になっているのでした。また、CLTは大きな面材の製造が可能であるため、面材の組み合わせによる新たな立体空間が提供できる大きな可能性を感じ取ることができました。2018年には東北大学建築CLTモデル実証棟がグッドデザイン賞とウッドデザイン賞を受賞しました。
さて、長井小学校第一校舎は築後85年の木造校舎で登録有形文化財であり、市民に愛されているだけでなく街を訪れる人々にとっても懐かしく印象的な建物です。2013年に耐震診断、2015年に免震補強設計、2017年から2年をかけて工事がなされ、今年12月の完成となります。免震設置工事に伴う全長100mにおよぶ建物のジャッキアップや木造建屋の補強工事では予想外のことも多く難しい工事でしたが、この建物が解体されることなく今後も使われ続けていくことに大きな喜びを感じます。このように、私たちは新しい木質空間の設計と今後の主流となる改修設計(リファイニング建築)に力を注いでいます。
《少子高齢化と事業継承》
少子高齢化に伴い建物の建設需要は減少し、かつ設計事務所の事業継承は困難になってくるのは間違いないと思われます。一方、設計業務は高度化、多様化しています。そのような中で、設計事務所一つ一つが、設計者一人一人が対応に考え悩むのではなく、ある時は互いに結束し協働するということが必要な時代に既になっています。私たちは外部の有能な建築家や技術者と高いパートナーシップで協働し、互いの能力を高め合い、地域や街を守る魅力ある設計事務所として今後とも期待され続ける存在でありたいと考えています。
最後に、山形では山形大学と東北芸術工科大学が建築学科を有し、地域の発展に貢献する人材を育成することを目指しており、私たちも彼らの受け皿となれるように努力していきます。