構造設計実務者から見た免震技術の変遷

株式会社フジタ設計センター構造設計部 牧瀬研二    2005年5月10日

免震構造は、1982年にBCJ(日本建築センター)で最初の審査が行われてから23年を経た今、小規模建築から超高層建築まで幅広く適用され、もはや特別な技術ではない。初期の頃から現在の普及に至るまでの免震技術の変遷について、実務設計に携わった立場から私見を述べてみたい。

1 告示と37条認定
2000年以前は、免震構造はBCJの免震委員会で審査を受け大臣認定取得が必要であった。2000年以降は従来の大臣認定ルートに加えて、ある一定の適用条件を満たせば告示による設計も可能となった。告示ルートは大臣認定ルートに比べると作業量が劇的に少なく、住宅等の小規模建築での適用が容易になった。反面、大臣認定材料以外のデバイス利用が実質的に不可能となった。初期の頃の免震材料はオーダーメイドであり、交換が必要になった場合、37条認定品しか利用できない現状では、設計をやり直し大臣認定を取り直す必要があると思われる。免震材料は種類が増え、性能も向上しており、規格化されたためコストも初期の頃に比べると格段に低下した。今後も杭頭免震等の新しいデバイスの開発が続き、設計の自由度が高くなると思われる。

2 施工と維持管理
免震構造が普及するに従い、設計、施工の内容にも変化が見られる。極く初期の頃はフェールセーフ機構を持った免震構造が多かったように記憶しているが、最近は少ないような気がする。また施工中の変位を止める仮設ブレース等が以前は設けられていたが、最近あまり見ない。免震材料の取付プレート下側の施工は、以前はグラウト材を圧入していたが、最近は流動化させた生コンを流し込むだけの事例も見られる。プレートの錆止塗装は歪みを嫌い、溶融亜鉛メッキが使われることが少なくなったが、通常の下地処理と錆止塗装では錆の発生が甚だしい場合がある。建物の維持管理責任は建物所有者が負うことは言うまでもないが、免震建物の維持管理については法的な罰則がない(?)ことから、十分な維持管理が行われていない事例もある。特に所有者が変わった場合、実質的に維持管理が行われなくなる可能性がある。維持管理については、エレベータのように強制力のある法整備か、メンテナンスフリー対策が必要ではないか。

免震技術の変遷は、設計技術の変遷とリンクしているわけではない。免震構造は、建築を物理的に1質点系の簡略なモデルに強制置換するもので、決して特殊な設計技術を必要とするものではない。構造設計の本質は免震構造も耐震構造も同じであり、入力と建築部材性能の適正評価を行うことである。建築基準法は設計クライテリアではない。

2018-11-29T16:27:36+09:002005年5月10日|
Go to Top