部材強度のばらつきを考慮した柱梁耐力比と柱ヒンジ発生確率(日本建築学会)   1998年7月

著者:森口英樹(フジタ),中埜良昭(東大生研),藤原 薫   日本建築学会構造系論文集 No.509

私は超高層鉄筋コンクリート造住宅の構造設計手法の確立に力を注いでいた時期がある。その中で、骨組は梁崩壊先行型が理想とされているわけであるが、解析的な研究では梁崩壊先行型を実現するには柱の曲げ強度を梁に対して1.2~1.5倍以上という余裕率が出されていた。しかし、この数値は確定論に基づくものであり、実際の部材の強度や強度の推定式のばらつきなどはまったく考慮されていないのはあきらかであった。そこで、確率論的には、どのような余裕率が設定されるのかを研究の対象とした。
この研究は著者の森口氏が当時の岡田研(東大生研)の研究員として2年間在籍した成果の一つとしてまとめられたものである。今後は、強度とともに剛性のばらつきを考慮した構造設計法が確立されていくものと思われる。すでに、免震建物では、免震装置の標準、上限、下限状態における強度と剛性のばらつきを取り入れた設計法となっている。

[概要]
建物の耐震設計を行うに当たって終局時にどのような崩壊機構を想定するかは,構造計画を進める上で重要な要素となる.地震時の振動エネルギーを吸収するために望ましい崩壊機構は,梁降伏先行型の崩壊機構である.この理由として,梁は柱に比べて軸力が作用していないため曲げ降伏による塑性変形能力が高く,安定した履歴により地震エネルギーを吸収しやすいこと,また,梁降伏では塑性化による特定層への変形集中はなく層崩壊を避けられることなどが挙げられる.したがって,梁の曲げ降伏先行を確保することが重要となる.梁および柱のいずれの降伏が先行するかは,柱梁接合部における柱と梁の曲げ強度比をどの程度に設定するかで左右されるが,曲げ強度比の設定に関しては次のような要因を考えなければならない.すなわち,1) 材料強度のばらつき,2) 強度評価式の精度,3) 鉛直地震動による柱軸力の変動,4) 塑性時のスラブ有効幅の増大,5) 地震動の不確定性,6) ヒューマンエラー,また,動的な外力分布の変動や2方向地震力の同時性などいくつか挙げられる.
これらの不確定要因の中で,統計処理によるばらつきの把握が容易な材料強度のばらつきと,想定した降伏機構を実現するために必要な柱梁耐力比との関連を論じた研究は決して多くはない.鉄筋コンクリート骨組を対象とした傳らの研究ではモンテカルロ法により柱崩壊確率の検討がなされており,諏訪ら,鈴木らの研究では地表面加速度と部材の破壊確率の関係を定量化している.また,鉄骨骨組を対象とした桑村ら研究では,層数や部材間の強度の相関係数をパラメータとして降伏耐力のばらつきが全体崩壊メカニズムに及ぼす影響を確率統計的に検討している.しかし,いずれの研究も強度のばらつきと必要な柱梁耐力比の関係については,その傾向を示してはいるが定式化には至っていない.そのため,構造設計者は工学的判断に基づき,上記の不確定要因を見込んで柱強度を設定しているのが現状である.

本研究は,高層RC造を設計する場合のクライテリアのひとつとなる柱梁曲げ耐力比の設定に関して,1) 使用材料のばらつき,および2) 強度評価式の精度,が柱ヒンジ発生確率におよぼす影響を明らかにするとともに,必要な柱梁耐力比の推定式の提案を目的としている.本報では,その第1ステップとして柱梁の十字形接合部1節点を対象とし,現在耐震設計において一般的に用いられることの多い柱梁耐力比を用いて柱ヒンジ発生確率を推定し,さらに,相関係数のもつ意味から材料の品質管理に基づく合理的な柱梁曲げ耐力比の設定法を提案している.

[結論]

統計データおよび確率理論を用いることによって,正規分布でモデル化した材料強度のばらつきおよび強度評価式の精度を考慮した,かつ部材強度の相関係数を変数に持つ柱ヒンジ発生確率の推定式を導き,以下のような知見を得た.

(1) 筋およびコンクリートの強度の変動係数をそれぞれ1~4%,10%と仮定すると,これらの材料強度のばらつきによる部材の曲げ強度の変動係数は,梁では1~4%,柱では5~8%程度となる.

(2) 曲げ強度の実験値と材料試験結果を用いた学会略算式による計算値とを比較した結果,統計的に実験値/計算値の平均値と変動係数は,T形梁でそれぞれ1.148,5.06%,柱で1.099,9.46%となる.

(3) 1)および(2)のばらつきを考慮した部材の曲げ強度Yの変動係数は梁で約6%,柱で約13%となる.これらの変動係数は既往の文献比べて柱はほぼ同じであるが,梁は1/2程度と小さくなっている.梁が小さい理由は,本研究で対象とした高強度材料を用いた場合の式のばらつきが小さいためである.

十字形接合部における節点モーメントの変動係数は,部材間(梁-梁間,柱-柱間)の曲げ強度の相関に応じて梁で5~6%,柱で11~13%となり,相関が高いほど柱ヒンジが生じ易くなる.これより,終局指針よびNewRC指針おける柱梁耐力比は1.2程度,柱ヒンジ発生確率は7%程度と推定され,実建物においてはさらに高い安全性が与えられている.

2018-11-29T17:04:32+09:001998年7月5日|
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