布施 剛臣
視察月日 :2013年10月10日
視察先 :Clinique Monet(Clinique de champigny:シャンピニー病院、フランス)
案内者 :Mr Orcier, Générale de santé Clinique de Champiny Director
Mr Zundel, Atelier Zundel Cristea (Architect)
■ 施設概要
所在地 :34 rue de Verdun – 94500 Champigny sur Marne
施設種別 :病院、回復期リハビリテーション
運営主体 :generale de santé (民間グループ)
設計者 :AZC (Atelier Zundel Cristea)
建設年次 :2012年1月
敷地面積 :不明 延床面積 :6,200㎡
構造・階数 :地上4階、地下1階
建設費 :20,000,000ユーロ
ベッド数 :90床+10床(外来患者用)
平均在院日数 :55~60日(神経部門)、30日(歩行障害部門)、30~35日(高齢者部門)
利用者数 :不明
職員数 :35名
外観 |
■ 運営概要
フランス最大の民間病院グループ企業、ジェネラ・ド・サンテ(Générale de santé)傘下のリハビリ専門病院である。
フランスの病院開設者は公立病院と民間営利、非営利に分類されるが、Générale de santéは上場も果たしているフランス国内最大の医療系民間営利企業であり、フランスを中心にイタリア、ポルトガル、カナダの医療機関を傘下に持つ国際企業体をなしている。
病院名称にcliniqueと付いてはいるが、フランス語においてcliniqueは一般的に専門分野に特化した民間病院を示しているので、本医院は回復期リハビリ病院としての性格を有する有床の病院である。Générale de santéは企業規模拡大を推し進めるなかで、買収と新規病院の立ち上げを精力的に行なっており、本病院もその流れの中でリハビリ専門病院として2012年に開設された。
■ 全体構成
1. コンセプト
エントランス前のエントリーコートヤード(前庭)とリハビリ室・食堂に囲まれたセンターコートヤード(中庭)を敷地内に設け、自然光が降り注ぐ明るく透明感のある建物を計画している。緩やかなカーブを描くように建物を途中でくねらせたリニアな形態とモノトーンの色彩計画、リブ付塩ビ鋼鈑で外装をシームレスに角を丸く納めた印象によって、全体的に軽快で柔らかな雰囲気を作り出している。
エントリーコートヤード | センターコートヤード | |
外観1 | 外観2 |
2. 配置計画・平面計画
[図-1.配置図] |
17.5mの間口で75メートルの奥行きを持つ細長い敷地に合わせて、建物も細長くボリュームを確保した計画となっている。設計者によれば、エントランス前のスペースと東側の駐車場を確保するようにスペースを空け、残りの部分に長方形の建物を湾曲させながら挿入することで、十分とは言い難い広さの敷地に効率よく建物のボリュームを配置したとのことであった。
建物周りにはエントランスコートヤード・センターコートヤード・緑地帯を設け、潤いのある環境を計画している。なお、敷地南面の緑地帯は将来の増築に備えたスペースとなる。
1階はエントランス・受付・食堂・リハビリ室などで構成されている。 2~4階が病棟となり、2階は神経部門、3階は歩行障害部門、4階は高齢者部門となっている。 地下階は薬局・機械室などで構成されている。
[図-2.各階平面図] 上から順に地階・1~4階 |
3. 各階構成
1階
■ 受付・エントランスホール
玄関を入ると明るく開放感のある受付・エントランスホールが広がっている。受付はオープンなつくりでカウンターも広々と確保しているので受付のやりとりもゆったりと行える。ホール内は隣接するエントランスコートヤードから明るい光が降り注ぎ、緑が映り込んだ潤いのある憩いスペースとなっている。
■ リハビリ室・プール・食堂
リハビリ室はこの病院の中で最も重要な部屋であり、各々の患者に合わせてリハビリのカリキュラムを組んでケアやフィジカルマッサージを行っている。また、この施設には広いプールが設けてあり、リハビリの一環としていろいろなケアに利用されている。
食堂はこの施設における患者同時の絆を深める効果を期待して設けている。すべての患者が利用可能なように様々なサイズの椅子や机が用意された広々とした空間となっている。ここでは食事とともに台所セラピーのプログラムも行われている。
センターコートヤードを取り囲んでいるリハビリ室・プール・食堂は明るい光が降り注ぎ、緑が映り込んだ潤いのあるスペースとなっていて患者が快適にリハビリに励むことができる空間である。
受付・エントランスホール | 食堂 |
リハビリ室 | プール |
2~4階
■ 病棟
病棟は2階が神経部門、3階が歩行障害部門、4階が高齢者部門となっていて、各階の部屋の構成は基本的に同じとなっている。構成としては南北軸に中央廊下を設け、病室とリビングスペース・ナースステーションなどを東西に向けて配置している。長くて細い中央廊下を直線ではなく少し湾曲させることで心理的な長さを解消させる工夫がされていたが、廊下の広さや開放感・明るさにも一工夫がほしいと感じた。壁天井はホワイトを貴重に、ポイントとしビビッドなカラーをところどころに使用しており、全体として清潔かつ快活な印象にまとめられている。
中央廊下 | 中央廊下 |
■ 病室
病室は1名と2名の2タイプで構成され、東西に設けられた窓より光が差し込む明るい空間となっている。なお、日射の調整には全て外付ブラインドを採用している。病室内の色彩は清潔感のある白を基調としながら、床や壁の一部には暖色系のアクセントカラーが用いられていて落ち着きのある雰囲気である。ベッド廻りの設備は一つのユニットとして集約されていて明確でスッキリとしたデザインにまとめられている。
病室 | 病室 |
■ リビングスペース
各階の病棟の中央にはデイルーム(リビング)が設けられている。大きな開口から光が降り注ぐ明るい空間となっていて、ここは病棟内の患者が自由にくつろぎ、食堂としても利用されている。外側バルコニーでは、椅子とテーブルが用意され、外の空気に触れて寛ぐことができるようになっている。
リビングスペース | バルコニー |
地 階
■ 薬剤部
薬剤を全て管理している薬局を地下に集約させ、薬剤の利用状況はコンピューターで管理されている。
■ 機械室
この病院の暖房と給湯に利用されている温水ボイラー、及び上階のプールのろ過器が設置されている。
薬局 | 機械室 |
まとめ
当病院はリハビリに関する最先端の医学的治療を導入しているとともに、患者が快適で心地の良いリハビリ治療や入院生活を行い、回復を助けて健康をサポートする環境が整備されていると感じた。センターコートを取り囲んだ一連の食堂・リハビリ室・プール廻りの空間はそれを代表している場所であった。各部屋が高い水準で機能を満たしながら、白を基調とした明るい空間とそこに映り込むセンターコートの緑が調和して心地良い雰囲気となっていた。また、ベッド廻りの医療コンソールから家具にいたるまでの各備品は統一感があり、雑然としがちな部屋も整然とまとめられている印象であった。
このようなソフト面・ハード面の充実した環境もあって当病院は患者から高い評価を得ているとのことである。しかし、リハビリ治療をしっかり行って退院した患者であってもフランスの制度的な問題もあって退院後の在宅医療が不十分なため、また当院に戻らざるを得ない患者がいるとのことである。これに対しては在宅訪問スタッフによる当院の在宅医療サービスの導入を検討しているとのことであった。このことから、日本・ヨーロッパどちらにおいても病院、通所デイケア、在宅間のスムーズな医療サービスの流れをさらに強化していくことが今後の課題であることがわかった。