耐震診断判定委員会の一年間の審査を振り返って

山形県建築設計事務所季刊「たより」への寄稿

山形県建築士事務所協会 耐震委員会委員長  藤原 薫

[用語の説明]
耐震診断: 1976年以前に建てられた建物は適用設計基準が古いために、大地震に対する耐震性が低い可能性が高いと言われている。これらの古い建物の耐震性を評価するための診断行為を耐震診断という。診断を行うのは構造設計者であり、定められた耐震診断基準に準拠して行う。診断は公的建物および民間建物のすべてを対象にするが,法的な強制力がないために公的な建物の診断だけが進んでいるのが現状である。

耐震診断判定委員会:構造設計者が診断を行い整理した報告書の妥当性を審査する委員会であり、阪神淡路大震災後に各都道府県に設置された公的な機関である。

私が山形県耐震診断判定委員会に関与し始めたのは3年前であり、委員会の事務局を担ったのはわずかに2年前である。したがって委員会に関しては最近のことしか知らないため、記述に正確さを欠くかもしれないが、お許しいただきたい。耐震判定委員会の委員は和泉正哲先生と川股重也先生のお二人であり、その下に判定WGが置かれ、この体制で審査依頼のあった耐震診断報告書の事前審査および本審査を行っている。WGのメンバーは構造設計者から構成され、正式メンバーが私以下8名、正式メンバー候補であるsubメンバーが3名の11名である。以前の審査状況を把握していないが、昨年を除けば、ここ数年は1年に2,3件の審査だったように記憶している。つまり委員会は開店休業に近い状況であったが、昨年から急激に審査物件が増大した。平成14年度は3月に12棟の審査を行い、平成15年度は9月から3月の間で69棟の審査予定である。審査棟数としてはかなりの量であり、委員会のメンバーは本業そっちのけの対応を迫られている。

昨年から鉄筋コンクリート造建物の適用診断基準を2001年度版(最新版)としたため、少々混乱があった。基準の改定内容が難解で、かつかなりコンピュータに頼ったものとなったために審査する側、審査される側ともに勉強しながらといった状況であった。基準図書に誤植が多い、診断ソフトが十分に対応していないなど課題が多かった。和泉先生は広範囲な研究分野で活躍された方であり、日本建築センターでは超高層評定委員会、免震評定委員会、電算評定委員会などの委員を長年経験されていたため、審査はお手のものである。また川股先生は東北工大校舎の耐震補強ブレースで有名であるが、私の記憶によれば慣性ポンプダンパーの研究と開発により科学技術長官賞を受賞された、理論と実験の両面に通じた稀少な方である。山形県は判定委員に恵まれたと言えよう。

さて昨年の3月は耐震診断を受託した設計事務所の多くは過去に耐震診断の経験がない、講習会さえも受けたこともないという状況で、審査時の大混乱が予想されたため、業務を受託した設計事務所を一堂に集めて審査の流れおよび審査時の要点などについて説明会を初めて行った。12月末発注の3月完了の業務であるから、初めて耐震診断を行う人にとっては冬期間という気候と委託期間の短さが重なって大変だったと思う。結果的に一事務所が所定期間内に作業を完了できなかった。今年度はこれらを踏まえて、発注者である県土木部の営繕室と何度も話し合いを持った。審査物件を各月に平均して計画的に発注、委託期間は原則4ヶ月以上などの申し入れをし、これはよく実行いただいたと思っている。したがって、6月の時点ですでに9月から3月までの審査委員会の開催日を首尾よく決定することができたのである。しかし過去に経験のない一月に2日連続の審査それも一日中という強行軍である。実際に行って見ると長時間、審査に集中するため、審査を終える頃には疲労困憊となる。審査件数が多くなったため、審査体制の見直し(審査時間、報告書の説明の流れ、結論を的確に導くような進行の方法など)も行った。審査件数が少ないとむやみと長い審査時間となりがちに思えたからである。

審査における様々な工夫ができたのは、仕事で個人的にお付き合いのある今井先生(筑波大学)と窪田先生(近畿大学)の助言によるところが大きい。先生方は茨城県、大阪府で耐震判定委員会の副委員長、委員長をされており、他県における審査上の問題点、審査上の工夫や苦労話などを直接聞くことができて、これを我々の審査に反映することができた。耐震診断の受託事務所と診断事務所が異なる場合は、受託事務所には審査時に最低限、建築概要と現場調査については説明願うスタイルとしたのは茨城県方式によったものである。これは、業務の丸投げ方式をモラル上牽制するためである。耐震診断ソフトを手に入れさえすれば、簡単に耐震診断ができると考えるのは危険である。ソフトにはかならず、バグ(不具合やミスなど)や入力ミスがつきものである。審査時にソフトの不具合が発見され、診断者に代わって委員会がソフト会社とやり取りをして当面の解決をはかったケースもあった。

(補足)
2005年度は7月から耐震診断判定委員会を開催している。やはりコンピュータ依存の診断が横行しており、診断結果に対する基本的なチェックが十分でないことが見受けられる。受託者はプロフェショナルとして仕事を受託したことを忘れないでほしい。また、今年度は特に、1回の本審査で終了しない物件が昨年に比べて多く感じられる。これは、業務委託期間が本年度に限っては5~6ヶ月という長さが設定されているのが一つの原因ではないかと思う。例年は3~4ヶ月であった。

2018-11-29T16:40:11+09:002004年5月12日|Tags: |
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