建築杭基礎の耐震設計の考え方 2.1節 3.1節

2006年刊行予定

著者:藤原薫

PHC杭のせん断破壊が注目された宮城県沖地震(1978)以後、杭の耐震性を考慮した設計の必要性が指摘されてきたが、兵庫県南部地震(1995)でさらに多くの杭基礎の被害事例が発生したことによって、その必要性が増幅されている。本小委員会は1997年4月から2000年3月まで設置された同名小委員会での成果として2004年4月にシンポジウム「杭基礎の耐震性に関する諸問題」を開催している。さらに、それを発展させて2001年4月から2005年3月にかけて「建築杭基礎の耐震設計の考え方」の原稿を完成し、刊行図書として出版の計画を立てている。 (杭基礎耐震小委員会)

2.1 解析法の現状

宮城県沖地震(1978)、兵庫県南部地震(1995)などによる杭被害の発生や性能設計の導入により、地盤-杭-建物系の一体解析の必要性および地震時の地盤変位の影響を杭の設計に適切に反映する必要性が強く指摘されている。入力地震動のレベルに応じて、建物の地震時挙動を可能な限り正確に評価するために、地盤-杭-建物系の解析においてモデルの精密化、非線形性の導入など、現在まで継続的に進展して来ている。しかし、実務の設計では、未だに慣用的に上部構造と杭は分離されることが多く、また静的解析においては十分な検証なしに杭頭はピンと仮定してモデル化されるなど、地盤および杭の挙動が上部構造に与える影響を設計に十分に反映しているとは言いがたい現状にある。静的解析法および動的解析法に分けて、構造解析法の現況を概観する。

3.1 地下室の効果に関する既往の文献

地下室の耐震効果を知るには2つの捉え方がある。一つは地下室があることによって、上部構造慣性力が地下室のない場合に比べて減少する効果である。もう一つは地下室があることによって、杭に発生する応力が地下室のない場合に比べて減少する効果であるが、どのような条件下でも必ず減少する効果が得られるかはまだ明らかにはなっていない。二つの効果のうち後者については、地下室のある方が、ない場合に比べて地震時に杭に被害が生じにくいであろうという直感的な推測がなされていたに過ぎない。後者を評価するものとして、近年、地震時の地盤変位を考慮した応答変位法が一部では用いられるようになってきており、建築基礎構造設計指針の中で地盤変位を考慮した杭の耐震設計法について解説されている。
前述した二つの耐震効果のうち、上部構造慣性力については地下室のある方が、ない場合に比べて小さくなる場合が多いという見解が常識となりつつあるので、以下では杭に働く応力に主眼をおき、建物と地盤および杭の動的相互作用に関する解析的および実験的研究事例について紹介する。ここでは、杭に最大応答せん断力が生じる時に地下室に働く土圧が抵抗側に作用する場合を「地下室が耐震的に有利に働く」と定義し、土圧が加力側に作用する場合を「地下室が耐震的に不利に働く」と定義することとする。

文責 藤原 薫

2018-11-29T17:00:51+09:002006年4月12日|
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